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判示事項の要旨: 幸田町長のした同町の行政財産であるJR幸田駅前広場の一部の目的外使用許可申請不許可処分に対し,原告が,処分は裁量権を逸脱・濫用してされた違法なものであるとして取消を求めたが,上記処分に違法はないとして棄却された事例。 平成17年8月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成16年(行ウ)第77号 不許可処分取消請求事件 口頭弁論終結日 平成17年6月29日 判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告が,原告に対し,平成16年11月4日付けでした行政財産目的外使用許可申請に対する不許可処分を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,一般旅客運送事業等を営む原告が,幸田町の行政財産であるJR幸田駅(以下「幸田駅」という。)の駅前広場の一部につき目的外使用許可の申請をしたところ,被告から同申請の不許可処分を受けたため,その取消しを求めた抗告訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) (1) 当事者等 ア 原告は,一般乗用旅客自動車運送事業,要介護者・身体障害者の送迎サービス,介護施設の運営等を目的とする有限会社である。 イ 被告は,幸田町長として,幸田町が所有する別紙物件目録1記載の土地を管理している(地方自治法149条6号)。 ウ 幸田タクシー株式会社(以下「幸田タクシー」という。)は,一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得てタクシー事業を営んでいる株式会社であり,幸田駅の駅前広場の一部をタクシーの駐車場所として利用している。 (2) 行政財産の目的外使用許可の制度 地方自治法238条の4第4項は,行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる旨規定している。 また,幸田町財産管理規則(昭和55年規則第8号,以下「本件規則」という。)20条は,行政財産は,職員及び当該施設を利用する者のために食堂,売店及びその他の厚生施設を設置するとき(1号),公の学術調査研究,公の施策等の普及宣伝その他公共目的のために行われる講演会,研究会その他の集会の用に短期間利用するとき(2号),水道事業,電気事業又はガス事業その他の公益事業の用に供するためやむを得ないと認めるとき(3号),災害その他の緊急やむを得ない事態の発生により応急施設として,極めて短期間その用に供するとき(4号),前各号に掲げるもののほか,町長が特に必要と認めたとき(5号)のいずれかに該当する場合に限り,その用途又は目的を妨げない限度において行政財産の使用を許可することができる旨規定している(甲5)。 (3) 原告による本件土地の目的外使用許可の申請 ア 第1次申請 原告は,平成14年6月5日,被告に対し,幸田駅の駅前広場のうち東海旅客鉄道株式会社の所有地を除く別紙物件目録2記載の土地(以下「本件土地」という。)について行政財産の目的外使用許可の申請をしたところ,被告はこれを不許可とした。 イ 第2次申請 原告は,平成15年2月18日,被告に対し,本件土地について行政財産の目的外使用許可の申請(以下「第2次申請」という。)をしたところ,被告は,同年3月17日,これを不許可とした。 原告は,上記不許可処分を不服として,同年4月1日付けで,被告に対し,異議を申し立てたところ,被告は,同月21日付けで,原告及び幸田タクシーに対し,①原告と幸田タクシーとの間で本件土地の利用について協議し,②幸田タクシーとの協議が整い次第,幸田町としては原告と本件土地の使用形態について打合せをするとの行政指導(甲3。以下「本件行政指導」という。)をした。 ウ 幸田タクシーとの協議の経緯 原告は,平成15年4月,幸田タクシーに対し,5回にわたり,本件土地の利用についての協議を申し入れたが,幸田タクシーはこれに応じなかった。 そのため,原告は,幸田タクシーを相手方として,本件土地の使用に関する調停を岡崎簡易裁判所に申し立てた(同庁平成16年(ノ)第51号)ところ,同調停は,平成16年7月27日,不調で終了した。 エ 原告の申請とこれに対する被告の応答 原告は,平成16年8月16日付け書面をもって,調停が不調になったことを受け,被告に対し,幸田タクシーとの協議を行うことは不可能となったことを理由に,第2次申請に係る不許可処分に対する異議申立てについて判断するよう求めた(甲4の1・2)。 これに対し,被告は,同年10月5日になっても上記異議申立てに対する判断をしなかったことから,原告は,同日,上記異議申立てを取り下げた上で,本件土地について改めて行政財産の目的外使用許可の申請(甲1。以下「本件申請」という。)をした。 しかし,被告は,平成16年11月4日,原告に対し,①本件土地は駅利用客の利便を図るため,鉄道用地と町有地を合わせて駅前広場として整備したものであって,タクシー駐車場として整備したものではなく,行政財産の目的外使用の要件には該当しないこと,②幸田タクシーは,駅前広場整備により,駅構内駐車場が支障となった経緯から代替として現場所に車両停車位置を示したものであり,排他的独占的な使用を認めたものではないこと,③幸田タクシーとの合意のもとで共存することが,広場の秩序ある利用形態であり,駅利用者の要望に応えるものであって,かかる合意なくしては,かえって利用者に不安を与えることを理由として,本件申請を不許可とする旨の処分(甲2。以下「本件不許可処分」という。)をした(なお,本件申請及び本件不許可処分は,駅前広場のうち,東海旅客鉄道株式会社の土地を除く本件土地についてされたものである。)。 2 本件の争点 本件申請は本件規則20条5号所定の「町長が特に必要と認めたとき」に当たらないとした被告の判断(本件申請が同条1号ないし4号に当たらないことは明らかである。)が,その裁量権を逸脱・濫用してされた違法なものであるかどうかである。 3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張) (1) 本件不許可処分の不合理性 被告は,本件不許可処分の理由として,①本件土地が,駅前広場として整備されたものであり,タクシー駐車場として整備されたものではないから,行政財産の目的外使用の要件に該当しないこと,②幸田タクシーに対し,本件土地の排他的独占的な使用を認めているものではないこと,③原告と幸田タクシーとの間での合意なくしては,利用者に不安を与えることを挙げるが,これらの理由は,以下のとおり,いずれも一見して合理性を欠いている。 ア 本件土地がタクシー駐車場として整備されたものではないことについて 一般的に,駅前広場には客待ちのタクシーが常駐し,駅の利用者がタクシーの乗降をしていることから,駅前広場をタクシーの駐車場として利用することは,駅前広場の一般的な利用形態に含まれるものである。そして,高齢者や障害者も広く駅を利用することにかんがみれば,このような社会的弱者のためにも駅前広場においてタクシーの利用を可能とすることが社会的な要請ともなっている。現在,幸田タクシーが許可を得ないまま本件土地を利用していることから明らかなとおり,本件土地にはタクシープール設備が備えられており,タクシー駐車場として利用することに何ら支障はない。 したがって,本件申請が許可されることによって,その後,駅前広場の交通が麻痺したり,歩行者の歩行が困難となったりするなどの事情があれば格別,このような事情が存在しないにもかかわらず,駅前広場におけるタクシーの客待ちのための駐停車を認めないことは,社会通念上合理性がない。 また,仮に,被告が,本件土地は既に幸田タクシーによって客待ちのために使用されており,原告にまで本件土地の使用を認める必要性がないことを理由として,本件不許可処分をしたのであれば,このような判断を導き出す前提事実に重大な事実誤認があることになる。すなわち,幸田タクシーによる本件土地の使用が,被告の許可なく行われている以上,幸田タクシーによる利用は違法であることとなり,原告に本件土地の使用を認めるかどうかを判断する前提として幸田タクシーが本件土地を使用していることを考慮することはできないからである。したがって,本件不許可処分の判断には重大な事実誤認がある。 イ 幸田タクシーに排他的独占的な使用を認めていないことについて 被告が幸田タクシーに本件土地の使用を許可していないとしても,現状においては,幸田タクシーが本件土地を独占的に利用している状態となっていることは事実である。また,本件申請が許可されたとしても,幸田タクシーによる本件土地の使用が制限されることはなく,本件土地の駅前広場としての用途が阻害されることもない。したがって,本件不許可処分は,幸田タクシーによる本件土地での独占的な営業を合理的な理由なく援助,推進,助長するものであり,平等原則に反するものである。 また,前述のとおり,幸田タクシーによる本件土地の使用は違法であり,被告は,本件土地の管理者として,幸田タクシーの本件土地の使用を排除する法律上の義務を負っている。それにもかかわらず,被告が,幸田タクシーによる本件土地の使用を排除することなく,これを本件不許可処分をする際の一要素として考慮したとすれば,被告の行政財産管理の怠慢を原告に転嫁するものとして著しく不公平であるといわざるを得ない。 ウ 幸田タクシーとの合意がなければ利用者に不安を与えることについて 本件不許可処分においては,原告と幸田タクシーとの間で本件土地の利用についての合意がなければ,幸田駅の利用者に不安を与えることとなる理由につき全く説明されていない。これは,実質的には,原告が,本件行政指導によって求められていた幸田タクシーとの間での協議をしなかったことを理由とするものと考えざるを得ず,幸田町行政手続条例(平成8年条例第17号)30条2項に違反する疑いがある。 仮に,原告と幸田タクシーとが本件土地において競合したり,被告が懸念するような利用者に不安を与える事態が発生することがあるとしても,かかる事態は,被告が適切に行政財産を管理せず,幸田タクシーによる行政財産の無断使用を黙認し続けたことに起因するものであって,かかる事態が生じ得ることを理由に本件不許可処分を行い,結果として本来被告が行うべき本件土地の利用調整の負担を原告に負わせるのは不当である。 被告は,本件土地をタクシー駐車場として利用することは,駅利用者に迷惑をかけず,駅前広場の目的に反しないものであることを認めた上,幸田タクシーに独占的地位を付与していないと主張していることに照らすと,本件不許可処分の唯一の理由は,幸田タクシーとの合意がなければ,利用者に不安を与えるということに尽きる。しかし,そもそも,本件土地の利用につき,他のタクシー会社との間での合意がなければ,利用者に不安が生じるような事態が発生する蓋然性は皆無である。したがって,被告は,社会通念上発生する余地のない事実を理由として本件不許可処分をしたというほかなく,その裁量判断に重大かつ明白な瑕疵があることは明らかである。 (2) 処分理由の開示義務違反 幸田町行政手続条例によれば,被告が申請を拒否する処分をする場合には,申請者に対し,拒否処分と同時に処分理由を示す義務がある(8条1項)。これは,行政庁が,処分の理由を示すことで,許認可等をするかどうかについての判断の慎重さや合理性が担保され,その恣意を抑制することができ,併せて申請者に不服申立てや訴え提起の便宜を付与し,当該処分の違法を争うことを可能にすることを目的とするものであるから,処分について示される理由は,抽象的・一般的なものでは不十分であり,申請者が拒否の理由を明白に認識できるものであることが要求される。 しかし,被告は,本件不許可処分において,「本件土地はタクシー駐車場として整備したものではないので,行政財産の目的外使用の要件にはあたらない。」と自明の事実を示すのみであり,これが,理由の提示として抽象的・一般的に過ぎることは明らかである。 よって,本件不許可処分は,幸田町行政手続条例に違反し,違法である。 (3) 結論 以上のとおり,本件不許可処分は,行政財産の目的外使用許可の裁量権を逸脱した違法及び幸田町行政手続条例に反する手続上の違法があり,取り消されるべきである。 (被告の主張) 本件不許可処分は,以下のとおり,被告の裁量権を逸脱又は濫用するものではない。 (1) 本件不許可処分の理由 本件土地は,駅前広場として整備したものであり,タクシー駐車場として整備したものではないから,本件規則の定める行政財産の目的外使用許可の要件を満たさない。また,被告は,本件不許可処分のそのほかの理由として,幸田タクシーに排他的独占的な使用を認めているわけではないこと,幸田タクシーとの合意なくしては利用者に不安を与えることも挙げている。 被告は,幸田タクシーに対して本件土地の目的外使用許可をしたものではなく,幸田タクシーが,幸田駅の駅前広場整備事業の結果,従前使用していた駅構内の駐車場を利用することができなくなったことから,本来自由に利用できる駅前広場の本件土地部分に駐車場を移動して利用するに至り,被告もこれを駅前広場の目的に反しないものとして扱ってきたものである。 (2) 原告の主張に対する反論 原告は,本件不許可処分に重大かつ明白な違法があるとして,理由の不提示,事実誤認及び公平を欠くとの主張をするが,これらの主張は,以下のとおり理由がない。 ア 理由の提示がないとの主張について 被告は,本件不許可処分において,その理由として,本件土地がタクシー駐車場として整備されたものではないこと,幸田タクシーが本件土地を使用するに至った経緯,及び原告と幸田タクシーとの協議の必要性を示しており,これらは,十分実質的な理由である。 イ 事実誤認との主張について 被告は,幸田タクシーに目的外使用の許可を与えておらず,幸田タクシーも本件土地を占有するものではない(原告も本件土地を自由に使用することができる。)。したがって,被告が本件不許可処分をする前提として,幸田タクシーの本件土地の使用を考慮の要素とはしていないのであって,何ら重大な事実誤認はない。 ウ 公平を欠くとの主張について 被告は,本件土地を幸田タクシーに占有使用させているわけではなく,幸田タクシーによる本件土地の使用占有を前提として本件不許可処分の判断をしたものではない。 したがって,本件不許可処分は,何ら著しく不公平な行為ではない。 第3 当裁判所の判断 1 行政財産の使用を巡る処分の判断枠組み 本件土地は,前記前提事実のとおり,幸田駅の利用者の利便を図るために駅前広場として整備されたもので,幸田町の行政財産であるところ,地方自治法は,原則として,このような行政財産を貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,これを出資の目的とし,信託し,私権を設定する行為を禁止し(238条の4第1項),これに違反する行為を無効とする(同条3項)一方,当該行政財産の用途又は目的を妨げない限度において,これを他人に貸し付け,私権を設定し,使用することを許可することができるものとして(同条2項,4項)行政財産の目的外使用許可の制度を設けている。これは,行政財産が,本来,公益を増進するという行政目的の達成のために使用されるべきものであることから,その使用による行政目的の達成を確保するとともに,例外的に,行政目的外の使用によっても当該行政目的が阻害されない場合における当該行政財産の効率的な利用を可能にするものであると解される。 そして,行政財産が,本来行政目的の達成のために使用されるものであり,同条4項が,行政財産の目的外使用許可につき,「これを許可することができる」と規定していることにかんがみると,普通地方公共団体の長は,目的外使用許可の申請があったからといって,これを許可すべき義務を負うものではなく,これを許可するかどうかは,当該行政財産の管理権者である普通地方公共団体の長が,当該行政財産の性質,これにより達成しようとする行政目的の内容,目的外の使用を許可した場合に予想される支障の程度,許可を受ける者が享受する利益の性質など,諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきものであり,かつその判断は,専門的,政策的見地からする長の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である。この理が幸田町の行政財産についても妥当することは,本件規則20条柱書に「行政財産は,……使用(略)を許可することができる。」と,同条5号に「……町長が特に必要と認めたとき。」と規定されていることからも裏付けられる。 したがって,当裁判所が本件不許可処分が違法となるか否かを判断するに当たっては,その処分が被告の裁量権の範囲を逸脱・濫用してされたか,具体的には,本件不許可処分に至った事実関係が全くその基礎を欠くか,又はその評価が社会通念上著しく妥当性を欠くかを検討し,これが肯定される場合に限り,違法と判断すべきものと解される。 2 本件不許可処分の適否 (1) そこで,本件不許可処分が違法かどうかを検討するに,前記前提事実に証拠(甲1,2,8,乙3ないし6)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア 幸田町は,西三河地方の中心都市である岡崎市のほぼ南方に位置し,南東側において蒲郡市と接している。同町にはJR東海道本線が走り,幸田駅はその乗降駅である。同町の市街地は,主として幸田駅の東側ないし北側に形成されている。 イ 幸田タクシーは,昭和63年10月15日,東海旅客鉄道株式会社から,幸田駅構内における旅客運送営業の承認を受け,同年11月1日から幸田駅構内にタクシー2台分の駐車場所を確保して営業活動を行ってきたところ,幸田町が,平成2年度に幸田駅利用客の利便を図るべく,町有地と鉄道用地を合わせて幸田駅の駅前広場整備事業を実施した結果,上記営業承認に係るタクシー駐車場が駅利用者のための通路とされたため,その代替地として上記整備事業により駅前広場の一部となった本件土地をタクシー駐車場として使用するようになった。幸田町も,以上のような経緯から,幸田タクシーによる本件土地の使用を駅前広場の目的に反しないものとして扱ってきており,現在においても,本件土地は,幸田タクシーのタクシー2台分の駐車場として独占的に利用されている。 ウ 原告は,本件土地において幸田タクシーと同様の態様でタクシーを駐車させて営業活動を行うべく,行政財産の目的外使用許可の申請を2度にわたって行ってきたものの,いずれも被告から不許可とされ,第2次申請にかかる不許可処分に対する異議を申し立てた。被告は,かかる異議申立てに対し,原告及び幸田タクシー双方に,本件土地利用について協議するよう本件行政指導を行ったが,幸田タクシーがこれに応じず,原告が申し立てた民事調停も不調に終わり,原告と幸田タクシーとの間の協議は頓挫した。 エ 原告は,被告に対し,本件行政指導に基づく幸田タクシーとの協議は調う見込みがないとして,第2次申請に係る不許可処分に対する異議申立てについて判断するよう求めたにものの,被告がこれについて判断しなかったため,平成16年10月5日,上記異議申立てを取り下げた上で,本件申請をした。 オ 被告は,平成16年11月4日,原告に対し,①本件土地は駅利用客の利便を図るため,鉄道用地と町有地を合わせて駅前広場として整備したものであって,タクシー駐車場として整備したものではなく,行政財産の目的外使用の要件には該当しないこと,②幸田タクシーは,駅前広場整備により,駅構内駐車場が支障となった経緯から代替として現場所に車両停車位置を示したものであり,排他的独占的な使用を認めたものではないこと,③幸田タクシーとの合意のもとで共存することが,広場の秩序ある利用形態であり,駅利用者の要望に応えるものであって,かかる合意なくしては,かえって利用者に不安を与えることを理由として,本件不許可処分をした。 (2) 以上の認定事実によれば,本件土地は,幸田駅利用者の利便を図ることを行政目的とする行政財産であるところ,駅前広場としての本来の用途に照らせば,幸田駅へのアクセスに自動車(自家用自動車を含む。)を用いる一般利用者の便宜を増し,さらに,歩行者の安全な通行等を確保するには,不特定多数の者が乗降等に利用し得る部分を広く確保することが有効と考えられるから,特定の者の排他的独占的使用部分をできる限り減少させることが要請されるというべきであり,この観点からすれば,原告による排他的独占的使用を求める本件申請(行政財産の目的外使用許可処分は,特定人に対してその対象物の排他的独占的使用権を設定する性質を有している。)は,本件土地の行政財産としての性格にそぐわないものと考えられる(この観点からすれば,幸田タクシーによる排他的独占的利用も必ずしも好ましいものとはいえない。)。 かてて加えて,駅前広場整備事業の経緯から,既に幸田タクシーが本件規則に基づく許可を得ることなく長年にわたって本件土地を排他的独占的に使用するに至っていることを考慮すると,①原告と幸田タクシーとの間で,本件土地の利用について協議が成立すればともかくとして,そうでない限り,原告に本件土地の使用を許可することによって,幸田タクシーとの対立が本件土地において何らかの形で現実化し,幸田駅利用者に不安を生じさせ,その利便がかえって損なわれる可能性があること,さらに,②本件申請に対して行政財産の目的外使用許可を与えた場合には,原告に対して本件土地の排他的独占的な使用権限を付与することとなり,幸田タクシーを含む第三者に対して優位な地位を与える結果となって,かえって行政の公平性を損なうと考えられることなどを総合考慮すると,被告が,本件申請は,本件規則20条5号所定の「町長が特に必要と認めたとき」に当たらないとした判断には,本件土地の管理権者の判断として相応の合理性が認められ,少なくともその裁量権を逸脱・濫用したものとはいえない。 (3) この点について,原告は,まず,①本件土地をタクシー駐車場として利用することに支障はなく,現に,幸田タクシーによって使用されているから,事実誤認があること,②本件不許可処分は,現に本件土地を利用している幸田タクシーの営業を援助するものであって,平等原則に反すること,③本件土地の使用を許可する前提として,幸田タクシーとの合意を要求することは,幸田町行政手続条例30条2項に違反するおそれがあることなどを主張する。 ア まず,①については,行政財産としての本件土地の用途は,前記のとおりであって,不特定多数の幸田駅利用者による円滑な乗降及び安全な通行等を確保するという観点からは,特定人による排他的独占的な使用部分は,できる限り減少することが望ましいと考えられるから,このような認識が一概に事実誤認であるとはいえない。 イ 次に,②については,確かに,前記認定事実によれば,幸田タクシーは,10年以上にわたり,本件規則に基づく許可を受けることなく本件土地の利用を継続しており,この間,被告は,かかる状態を黙認してきたというのであるから,ここに至るまでにいかなる経緯があろうとも,行政財産の管理権者である被告の所為は,幸田町の行政財産の適切な管理を怠り,その無許可使用を放置してきたものとして違法なものというほかない。 しかしながら,このような事態は,被告が幸田タクシーに対して適切な管理権を行使することによって是正すべきものであって,原告に対して本件土地の目的外使用許可を与えることによって解消すべきものとは考えられないから,本件不許可処分が平等原則に反するものとはいえない。 ウ さらに,③については,本件土地は幸田町の行政財産であるから,被告が主体的にその管理権を行使すべきものであり,仮に,原告の指摘どおり,幸田タクシーとの協議の成否によって本件申請に対する処分が異なるのであれば,そのような扱いは,幸田町行政手続条例30条2項のみならず,地方自治法238条の4や本件規則20条の趣旨に照らしても疑問があるといわざるを得ない。 しかしながら,本件行政指導(甲3)からうかがわれる被告の真意は,原告と利害が対立しかねない幸田タクシーとの間の紛争を未然に防止すべく,そのために最も効果的と考えられる両者間の協議を求めた上で,本件土地を含む駅前広場の利用形態について総合的に検討する用意があることを表明したものと考えられ,協議が成立しなかったことをもって本件不許可処分をしたものとは認め難いから,同主張も採用できない。 (4) また,原告は,本件不許可処分には,具体的な理由が付記されておらず,幸田町行政手続条例8条1項に違反する違法があると主張する。 幸田町行政手続条例8条1項(行政手続法8条1項も同旨)が,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には,申請者に対し,理由を示さなければならない旨規定しているのは,当該処分を行う行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保することにより恣意を抑制するとともに,申請者に対して不服申立ての便宜を提供するためと考えられるところ,前記前提事実のとおり,行政財産目的外使用について(回答)と題する書面(甲2)において,①本件土地は,駅利用客の利便を図るため鉄道用地と町有地を合わせ,駅前広場として整備したものであり,タクシー駐車場として整備したものではなく,行政財産の目的外使用の要件に当たらないものであること,②幸田タクシーは,駅前広場整備により駅構内駐車場が支障となった経緯から代替として現場所に車両停車位置を示したものであり,排他的独占的な使用を認めたものではないこと,③幸田タクシーとの合意の下で共存することが,広場の秩序ある利用形態であり,駅利用者の要望に応えるものであり,合意なくしては,かえって利用者に不安を与えることとの理由が記載されており,これらは理由付記の上記趣旨・目的を満たすに十分な具体性を有していると認められるから,幸田町行政手続条例8条1項に違反するとはいえない。 3 結論 よって,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 舟橋恭子 裁判官 片山博仁 (別紙省略)
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西日本新聞社の記事へ飛ぶ (魚拓) 2010年5月9日 22 09 宮崎県は9日、いずれも同県川南町にある養豚場や酪農場など7カ所で、口蹄疫に感染した疑いのある豚2匹と牛10頭が確認されたと発表した。感染疑いの家畜が出た農家や施設は、計56カ所となった。 県はこれらの農場で飼育されている豚1669匹と牛259頭を殺処分する方針で、処分対象は計約6万4千匹となった。 県によると、8日に農場や獣医師から、宮崎家畜保健衛生所(宮崎市)に連絡があったほか、県が行っている電話聞き取り調査で症状を示す豚や牛がいることが分かった。家畜防疫員が立ち入り検査し、乳房の水泡や舌の潰瘍などの症状を確認、動物衛生研究所海外病研究施設(東京都小平市)による遺伝子検査でそれぞれの農場の1~3匹に陽性反応が出た。 5月 被害状況
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産経新聞社の記事へ飛ぶ (魚拓1/2)(魚拓2/2) 2010.5.18 20 02 宮崎県で家畜の伝染病、口蹄(こうてい)疫が拡大している問題で、農林水産省は18日、東京・霞ヶ関で専門家が防疫対応をする「牛豚等疾病小委員会」を開催し、拡大防止のために口蹄疫の症状を抑えるワクチンの使用を検討すべきだとの結論をまとめた。宮崎県では同日、新たに15カ所で感染疑い例が判明し、殺処分対象は1市4町の計約11万4千頭に拡大。東国原英夫知事は感染拡大防止と早期撲滅のため非常事態宣言を発令した。 委員会終了後、委員長代理の寺門誠致(のぶゆき)共立製薬先端技術開発センター長が会見し、対応策を明らかにした。 家畜へのワクチン接種は口蹄疫の症状を緩和し、ほかの家畜に感染しにくくする効果がある。発症のペースを落とし、殺処分を計画的に行うことができるメリットもある。その一方で、感染の完全な予防はできず、症状がわかりにくくなるため、感染経路の特定は逆に困難になる可能性もある。 寺門氏は「使用は慎重に検討されるべきだ。また、使用した家畜は処分しなければ、国際的に清浄国の認定は得られない」と述べた。ワクチンは現在約70万頭分の備蓄があり、接種地域や対象は今後、検討すべきだとした。 委員会では、一定の地域を決め、感染の疑いがある家畜だけでなく、疑いのない家畜も含め予防的に「全頭処分すべきだ」との意見も出されたという。 現行の家畜伝染病予防法では、口蹄疫の陽性反応が出た家畜と、同じ農場内の家畜が殺処分の対象となっており、予防的な殺処分には法改正や特別措置法の制定が必要となる。これについて、赤松広隆農林水産相は同日午前の閣議後会見で、「人の財産権を侵す話で、物理的にも無理がある」と否定的な見解を示していた。 委員会に先立ち、宮崎県の東国原知事は「拡大を止めることができない状況だ。全国にも感染が拡大する可能性を否定できない」として、非常事態宣言を発令した。 口蹄疫の発症地域では、車両の消毒を畜産農家以外の一般車両にも徹底。発症していない地域でも同様に、イベントの延期や、不要不急の外出の自粛、マスクの着用や手足の洗浄などを呼びかける。東国原知事は、宣言は「県民に事態を認識してもらうためのお願いレベル」としている。 5月 対応 防疫関係
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読売新聞社の記事に飛ぶ (元記事控) 宮崎県で発生している家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」を巡り、県は7日夜、新たに同県川南町の8農家の牛と豚計21頭に感染した疑いがあると発表した。これで、発生したのは1市2町の43施設(疑い例も含む)となり、殺処分頭数は牛と豚計5万9104頭に達した。 発表によると、牛を飼育していたのが4農家で、豚を育てていたのが4農家。6日に一部の牛や豚に症状が出たという。 8農家はいずれも、1例目の農家から南東に約3・5~7キロ。8農家が飼育する牛計228頭、豚計1万3984頭は殺処分される。発生からの処分頭数は、牛計3329頭、豚計5万5775頭になった。 一方、農林水産省は7日、同県都農(つの)町、えびの市、川南町で見つかった6、9、11例目の感染が確定したと発表。これで確定したのは計10例となった。ウイルスの型はすべてO型だった。 (2010年5月8日 読売新聞) 5月 被害状況
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時事ドットコム 記事へ飛ぶ (元記事控) 宮崎県は30日、口蹄(こうてい)疫問題で、ワクチンを接種した家畜の殺処分・埋却がすべて完了したと発表した。既に感染疑い家畜の処分は24日までに完了しており、処分した家畜は合計で約27万6000頭に上った。さらに、ワクチン不同意の2軒の農家に対し家畜を殺処分するよう説得を続ける。 同県の東国原英夫知事は「殺処分・埋却に従事した多くの方々、県民、県内外の方々に心から感謝する。引き続き、防疫対策の徹底に協力をお願いしたい」とのコメントを発表した。 家畜の処分がおおむね完了したことを受け、宮崎県は非常事態宣言の緩和に近く踏み切る方針。夏場の観光などへの影響を考慮し、不要不急の外出や大規模な集会の自粛を求めてきた内容を和らげる見通しだ。 一方、同県都城市では家畜の安全確認検査が終了した。血液採取による抗体検査に加え、発生農場から半径3-10キロ圏内の農場の家畜に対する目視検査でも異常が見つからなかったため、県は同市における家畜の移動・搬出制限は7月2日午前0時に解除する。 (2010/06/30-21 22) 6月 復興
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接見交通権と接見指定 告訴 緊急逮捕 現行犯逮捕 準現行犯逮捕 令状による捜索・差押え 令状によらない捜索・差押え 記録命令付差押え 鑑定留置
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西日本新聞社の記事へ飛ぶ (魚拓) 2010年5月8日 22 09 宮崎県は8日、新たに同県川南町と都農町にある農場6カ所で、口蹄疫に感染した疑いのある牛13頭と豚3匹が確認されたと発表した。感染疑いの家畜が出た農家や施設は計49カ所となった。 県はこれらの農家が飼育している牛約1160頭と豚約660匹を処分する方針で、これまでの処分対象は計約6万2400匹に上る。 県によると、いずれも7日に農家や獣医師から、口蹄疫の症状を示す牛や豚がいると宮崎家畜保健衛生所(宮崎市)に連絡があった。家畜防疫員が立ち入り検査し、よだれや舌の水疱などの症状を確認。動物衛生研究所海外病研究施設(東京都小平市)による遺伝子検査で、それぞれの農場の1~5匹に陽性反応が出た 5月 被害状況
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読売新聞社の記事に飛ぶ (元記事控) 宮崎県は5日、同県川南町の養豚農家3軒と、同県えびの市の養豚農家1軒の豚計13頭が、家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」に感染した疑いがあると発表した。同県での感染は、疑い例を含め23例となった。4農家が飼育する豚計6213頭が殺処分される。 これで処分対象は牛(水牛含む)2917頭と豚3万1068頭の計3万3985頭となった。 県の発表によると、いずれも4日、各農家から口蹄疫のような症状を示す豚がいると県に通報があり、検体の遺伝子検査で5日、陽性と判明した。 5日開かれた県の口蹄疫防疫対策本部会議で、本部長の東国原英夫知事は「非常事態を宣言してもよいと思うほど深刻な事態。農家は心理的な疲弊が予想される」と述べた。 (2010年5月6日 読売新聞) 5月 被害状況
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時事通信社の記事へ飛ぶ (元記事控) 宮崎県で家畜の口蹄(こうてい)疫感染が拡大している問題で、政府高官は18日、一定区域内での全頭殺処分について「必ずそういうときは来るだろう」と述べ、踏み切らざるを得ないとの見通しを示した。 これに関し、平野博文官房長官は同日の記者会見で、未感染の家畜の予防的処分について「財産権の概念があるから単純にはいかない」としつつ、「(感染を)撲滅するということで所有者の理解をいただく方法や、ほかにも知恵はある」と述べた。 その上で、平野長官は「いずれにしても(感染を)県外に出さない、宮崎県の一部のエリアで抑え込むことの方が大事だ」と強調。家畜伝染病予防法改正や特別措置法制定については、「本当に法改正でなければならないとすれば、与野党で理解いただいて早急に対応することもあり得る」と語った。 (2010/05 /18-17 44) 5月 防疫関係
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判示事項の要旨: 税務署長が商品先物取引に係る雑所得を認定して行った増額更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対し,原告が(1)無断売買等による先物取引の無効,(2)翌年度の損失との損益通算等を主張して提起した取消訴訟がいずれも棄却された事例 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請 求 被告が平成14年12月25日付で原告に対してした原告の平成13年分の所得税に係る更正処分のうち納付すべき税額162万7500円を越える部分及び過少申告加算税を賦課する旨の決定をいずれも取り消す。 第2 事案の概要 平成13年度の所得につき原告が税務申告及び修正申告を行ったところ、被告が商品先物取引に係る雑所得が4656万2000円あったと認定して納付すべき税額1093万9900円とする更正処分及び過少申告加算税129万1500円の賦課決定処分(以上の処分を併せて「本件各処分」という)を行ったのに対して、原告が商品先物取引に係る雑所得の認定を不服として本件各処分の取消しを求める事案である。 1 争いのない事実 (1) 本件取引等 ア 原告は、平成13年9月20日から平成14年1月21日までの間、A株式会社に委託して商品先物取引(以下「本件取引」という)を行い、平成13年内の決済により合計4688万4860円の利益(利益は売買差益から委託手数料、消費税等の必要経費を控除したもの。商品先物取引による損益につき以下同じ)を、平成14年の決済により合計5853万9010円の損失を出し、取引を通じて1165万4150円の損失となった。なお、原告は、平成13年12月11日、A株式会社から利益金のうち600万円を事業資金として引き出した。 A株式会社は、取引継続中、原告に対し、毎月1回以上残高照合通知書を発行し、委託証拠金残高の照合を求めるとともに、返還可能額の取扱いについて原告の指示を求めていた。これに対し、原告は残高照合回答書に署名、押印して回答していたが、残高照合通知書の記載内容に異議を申し出る旨の記載はしていない。 イ 原告は、平成13年11月21日から平成14年6月3日までの間、B株式会社に委託して商品先物取引を行い、平成13年内の決済により合計32万2860円の損失を、平成14年の決済により合計2627万5740円の損失を出し、取引を通じて2659万8600円の損失となった。 ウ 以上の商品先物取引に係る平成13年内の損益は、①総収入金額5613万8000円、②必要経費の額957万6000円であり、①から②を控除した金額は4656万2000円(以下「本件利益」という)である。 (2) 本件各処分及びその後の経緯 エ 原告は、被告に対し、平成14年3月13日に平成13年分の所得税につき別表①のとおり確定申告を、同年4月24日に同表②のとおり修正申告をしたところ、被告は、同年12月25日付で、原告に対し、同表③の本件各処分を行った。 オ 原告は、平成15年2月24日、本件各処分の取消しを求めて被告に対する異議申立てを行ったところ、被告は同年5月22日同申立てを棄却した。 原告は、同年6月17日、本件各処分の取消しを求めて国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は、平成16年4月26日、同請求を棄却する裁決をした。 2 主要な争点及び当事者の主張 (1) 本件取引が原告の意思に基づかず、また違法な勧誘等に基づくものであって無効であり、そのため本件利益は原告に帰属しないといえるか (原告の主張) 本件取引は適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、断定的判断の提供、説明義務違反、虚偽説明、仕切拒否、無意味な反復売買、向かい玉等の違法不当な勧誘に基づく異常に頻繁かつ膨大なものであるから、公序良俗に反して無効であり、また原告の意思に基づかない取引である。したがって、本件取引の効果は原告に帰属せず、これに対する課税は許されない。 また、平成13年度内の利益は、平成13年12月20日から28日までの間に4回にわたって帳尻金から委託証拠金に振り替えられており、A株式会社の支配下にあったものであるから、平成13年度の所得ということはできない。 (被告の主張) ア 所得税法は、人の担税力を増加させる所得はその源泉のいかん、形式のいかん、合法性の有無を問わず全て所得として把握するものとし、法令等において非課税とする趣旨の規定がない限りこれを課税の対象とする。 商品先物取引は将来の一定時期に物を受け渡すことを約束してその価格を現時点で決める取引であり、約束の期日以前ならばいつでも反対売買によって差額を決済して取引を終了することができる取引である。決済によって委託者に売買差益が生じた場合、その売買差益は担税力を増加させる利得に当たり、これを非課税とする法令の規定も存在しないから、たとえその取引が原告の主張するような違法な勧誘等に基づくものであったとしても、これによる利得は委託者の所得に帰属し、課税の対象となる。 イ 原告は本件各取引が原告の意思に基づかない旨主張する。 しかし、A株式会社は原告に残高照合通知書を送付して委託証拠金残高の照合を求め、原告は残高照合回答書に署名押印して回答し、前記通知書の内容に異議を申し出る旨の記載をしていないことなどに照らし、原告の前記主張は失当である。 ウ また、原告は、本件利益はA株式会社の支配下にあり、原告に帰属していなかった旨主張する。 しかし、本件取引においてA株式会社は委託者である原告から委託証拠金の返還可能額を返還しなければならないとされていたところ、現に原告は同社に対して委託証拠金の返還を請求し、平成13年12月11日、A株式会社から600万円の返金を受けたのであるから、原告の取引口座がA株式会社に支配されていたものとはいえない。 (2) 本件利益から平成14年の損失を控除すべきか (原告の主張) 本件利益はA株式会社の外務員による違法な扇形建玉によって平成13年度末に一時的に生じたものに過ぎず、翌平成14年1月21日までにそれ以上の損失を出して手仕舞している。これらは一連で密接不可分の本件取引によって生じたものであり、本件利益により原告の担税力が増加したものとはいえないから、本件取引による損益は平成13年度、14年度を通算し,本件利益から平成14年の損失を控除すべきものである。 (被告の主張) ア 所得税法は雑所得の所得金額につき一暦年を単位とする期間計算の方法を採り、当該年分の総収入金額から必要経費を控除した金額とすると定める(35条2項)とともに、総収入金額及び必要経費の計上時期に関して、総収入金額に算入すべき金額はその年中において「収入すべき金額」とするとしていわゆる権利確定主義の建前を表明し(36条1項)、必要経費に算入すべき金額についてもその年に支出すべき債務として未確定のものを除くとして上記権利確定主義に対応する債務確定主義の原則を採用している(37条1項括弧書)。したがって、当該年分の雑所得金額の計算上、未だ債権債務として確定するに至らないものをその年分の総収入金額又は必要経費として算入することは、前記原則に反し、許されない。 商品先物取引のように、専ら反対売買成立の際に手仕舞(清算)を行うものにあっては、反対売買の成立時に差損益金として債権債務の金額が具体的に確定するというべきであるから、前記時点をもって雑所得の総収入金額又は必要経費の計上時期とするのが相当である。 イ そして、平成14年分の商品先物取引に係る雑所得の金額の計算上生じた損失の金額を、平成13年分の商品先物取引に係る雑所得の金額の計算上控除することができるという税法上の規定は存在しないから、原告の前記主張は失当である。 (3) 本件各処分が権利濫用に当たるか (原告の主張) 前記(2)で主張した事実によれば、本件各処分は課税権の濫用である。 (被告の主張) 争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件取引が原告の意思に基づかず、また違法な勧誘等に基づくものであって無効であり、そのため本件利益は原告に帰属しないといえるか)について (1) 所得税は、私法上の行為それ自体又は私法上の行為の法的効果を課税の対象とするものではなく、私法上の行為によって生じた経済的成果である所得を課税の対象とするものである。したがって、税法の見地においては、課税の原因となった行為が厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法・無効とされるかどうかは問題でなく、課税の原因となった行為の経済的成果が現に行為者に帰属し、これにより現実に課税の要件事実が満たされていると認められる場合である限り、上記行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられないと解すべきである。 本件にあっては、仮に本件取引が違法な勧誘等のために私法上その効力を否定されるべき場合に該当するとしても、本件取引において玉の反対売買による決済によって生じた利益が原告の口座に入金されている以上、原告が自由に処分し得るものとして、原告に帰属したものといわざるを得ない。すなわち、当該利益の額だけ原告の担税力が増加したものというべきであるから、課税の対象となる所得(雑所得)に当たると解すべきである。 (2)ア この点につき、原告は本件取引は原告の意思に基づくものではなく、これによって生じた本件利益は原告に帰属しない旨主張する。 しかし、原告の主張は、要するに、本件取引は説明義務違反、一任売買等の各種の違法な勧誘に基づくものであるから原告による主体的な投資判断に基づくものではない旨をいうものに過ぎない。そうすると、原告の主張によっても、本件取引の経済的成果は一応原告に帰属することになる。 イ また、原告は、本件取引による利益が入金された原告の口座はA株式会社の支配下にあり、原告に帰属したとはいえない旨主張する。 しかし、原告は平成13年12月11日にA株式会社から600万円の利益金を引き出しており(前記争いのない事実)、原告の口座がA株式会社の支配下にあったということはできず、原告の上記主張は採用できない。 2 争点(2)(本件利益から平成14年の損失を控除すべきか)について (1) 所得税法は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」(36条1項)と定め、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し課税を行うこととしている。 そして、同法36条1項が上記期間中の収入金額の計算について「収入すべき金額」によるとしていることから考えると、同法は、現実の収入があったかどうかにかかわりなく、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして右権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される(最高裁判所第2小法廷昭和40年9月8日決定・刑集19巻6号630頁、最高裁判所第2小法廷昭和49年3月8日判決・民集28巻2号186頁、最高裁判所第2小法廷昭和53年2月24日判決・民集32巻1号43頁参照)。 また、必要経費に算入すべき金額についても、所得税法37条1項が「その年分の……雑所得の金額……の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする」としており、債権確定主義に対応して、債務確定主義が採用されている。 以上の債権債務が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものである。これを商品先物取引についてみれば、個々の建玉を決済した時点でその損益が個別に確定するのであるから、決済の時点で権利が確定するものというべきであり、当該暦年内に決済せず保持した玉については、たとい値洗い損があっても、これを当該暦年内に決済した玉の損益と通算することは許されないものと解される。 (2) また、平成14年分の商品先物取引に係る雑所得の金額の計算上生じた損失の金額を、平成13年分の商品先物取引に係る雑所得の金額の計算上控除することができるという税法上の規定は存在しない。 (3) 以上によれば、この点に関する原告の主張は採用できない。 3 争点(3)(本件各処分が権利濫用に当たるか)について 本件利益が原告に帰属したといえることは既に判示したとおりである(前記1)。また、前記所得税法上の原則に反して原告のみに有利な取扱いをすることは租税公平主義の観点から許されない。本件各処分をするについて被告に何らかの落ち度を見出すことはできない。さらに、将来本件取引が公序良俗等により無効であることが確定し、原告にその利益が帰属しないことが明らかになれば、その時点で減額更正の手続を経て過納金の還付を受けることもできるし、本件取引につきA株式会社の外務員による違法行為が認められるのであれば、本件各処分による課税額も上記違法行為による損害としてA株式会社にその賠償を請求する余地もないとはいえないのであるから、本件利益に課税することが原告にとって著しく酷であるということもできない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 第4 結 論 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決をする。 広島地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官 橋 本 良 成 裁判官 木 村 哲 彦 裁判官 相 澤 聡